辛いことをすれば報われるなんて嘘①グッドハートの法則

「子どもたちのやる気」について考えるうちに、チャールズ・グッドハートの「グッドハートの法則」という考え方に出会いました。この法則は「指標が目標になると、その指標は本来の目的を失いやすくなる」というものです。

私は受験業界で長年、偏差値を上げ、志望校合格を支援してきましたが、そこで感じたのは、本来学びが好きなはずの子どもたちが、いつの間にか勉強を「やらなければならない辛いこと」と思い込んでしまっていることでした。子どもたちが本来持っている「知りたい!」「分かりたい!」という気持ちが失われる様子に、私は深い憂慮を抱くようになりました。

25 年ほど前、私は幼児教育の世界に足を踏み入れました。まだ評価や競争といった外的なプレッシャーが存在しない中で、子どもたちは学ぶことに対して純粋な好奇心と喜びを持っていました。絵を描いたり、ブロックを積んだり、新しいことを発見するたびに「これもできた!」と目を輝かせ、素直に喜ぶ姿は本当に愛おしく、自然で、まさに「学びの楽しさ」を体現しているように感じました。

しかし、成長していくにつれ、学校や社会の期待や評価がどんどん押し寄せ、学びの喜びが失われ、「点数を取るため」「競争に勝つため」の辛い義務となってしまうことが多くあります。この変化の背景には、偏差値や成績という評価指標が学びの本来の目的から子どもたちを逸らしてしまうという「グッドハートの法則」の影響があると感じるのです。

評価や競争が子どもたちの学びに悪影響を与える理由は、外的な評価が目標化することで、子どもたちが自分の内なる好奇心を失ってしまうことにあります。例えば、最初のうちは褒められたり、テストで良い点を取ったりすることが嬉しく、勉強を続ける動機になります(外発的動機)。

ですが、それだけでは本当に長く続けるエネルギーにはなりません。学びを楽しみ、知識を追求する気持ちを育むためには、自分自身の「もっと知りたい!」「もっと上手くなりたい!」という内側からの動機(内発的動機)が必要なのです。つまり、子どもたちが「何を学びたいか」「どう成長したいか」を考えられるようになることが本当の成長の鍵なのです。

例えば、子どもたちが興味を持っている分野に没頭するとき、彼らの目はキラキラと輝き、時間を忘れて取り組むことがあります。このような体験を通じて、子どもたちは知識を深め、学びの楽しさを実感します。そんなとき、勉強は「やらなければならないこと」ではなく、「やりたいこと」へと変わり、結果的に成績も上がり、成長もしていくのです。私たち教師が目指すべきは、まさにこうした「楽しさ」を子どもたちと共有し、サポートすることです。

また、子どもたちにとっての学びは、単に成績や偏差値のためではなく、人生を豊かにする大切な要素でもあります。学びを通じて自分の興味や関心を追求し、他者とコミュニケーションし、社会と繋がる経験が子どもたちの心を広げ、自信を育みます。学びに触れ、思わぬ発見や成功を重ねることで、彼らは「やればできる!」という実感を持ち、自己肯定感も養われていきます

教師の使命は、単に知識を教えることではなく、子どもたちに「幸せになる方法」を伝えることです。学ぶことの楽しさや面白さを伝えると同時に、人生の中で自分なりの幸せを見つけ、手に入れるための力を育むサポートが大切だと思います。たとえ絶対的な正解を教えることはできなくても、子どもたちと一緒に考え、彼らが自分自身の手で幸せをつかむ力を育むことができれば、それが教育の本質だと感じます

もし教育の場が、評価や競争のプレッシャーに縛られず、子どもたちが純粋に学びを楽しめる場所であれば、そこには「やる気」と「好奇心」が自然に生まれてきます。私たち教師が目指すべきは、こうした楽しさを子どもたちと共有し、彼らが「やりたいこと」を追求できる環境を整えることです。

学びが子どもたちの人生を豊かにし、社会全体の幸福感を高めるための大切な土台となることを信じ、これからも教育に向き合っていきたいと思います。

2024年11月27日
園長 峯村敏弘