まだ若い頃、写真家になりたい時期があり、友人のカメラマンから色々と教えて頂きながらアートとしての写真の世界に入りました。写真をライブラリーに預けて雑誌の口絵や広告に使われると、報酬が支払われました。もちろん頂く金額より私が使う額の方が多いのですが、それでも気分はすっかりプロの写真家でした。
撮影で1番美しいのはなんといっても朝陽の上がる瞬間と夕陽の沈む寸前です。全ての景色が輝き、どんなものも美しさを煌めかせ始めます。私は興奮状態でシャッターをきり続け、より美しい瞬間と場所を求めて走り回りました。そのうちにあの丘の上からの景色が気になりだします。「あそこならもっと素晴らしい風景が広がっているに違いない、ここよりもっといい写真が撮れる。早く向こうに移動した方がいいけど、あゝ今からでは間に合わない」そんな思いがぐるぐると回り悔しい気持ちで一杯でした。目の前のこの景色よりも他の方が…と思っていると当然、撮った写真は綺麗ではあるものの納得できるものにはなりません。そんな失敗を繰り返しているうちに、余計なことを考えず今、目の前に広がる美しい風景に感謝して、その中でさらに素晴らしいアングル、表現したい物を引っ張り出す事がいい写真を撮る秘訣と分かってきました。現状に甘んじず最善を尽くす気持ちは大切です。しかし、どんな時も今のその現況を感謝して夢中にならないと結果的に出来上がったものは良いもの、次の幸せに繋がらないものになってしまいます。
人生で悩み苦しんでいる時も同じだと思います。どんなに最悪と思う場面でも、時間が経つと、その時点ではそれが最善の道であったことが分かります。しかし、渦中に居る時は自分の思いとは違うという点にこだわり、現状をなかなか冷静に受け入れられず、それが最高である事に気づけないのです。「二兎を追う者は一兎をも得ず」です。目の前の兎が最高の獲物なのです。感謝して楽しく追いかけましょう。思いもよらない宝がみつかるかもしれませんよ。
園長 峯村敏弘
2017年12月